株式会社スタッフロールは2018年4月より「これからの生き方を考える会」をスタートさせました。多様なバックグラウンドを持つ方々とのつながりの中から、これからの時代を生きるひとりひとりの新しい在り方を模索していきます。
今回は2018年9月に行われた第5回のレポート【後編】をお届けします。
第5回テーマ「コミュニティと暗号通貨」
第5回の話題提供者は、ファイナンシャルプランナー織田事務所代表の織田昌典さん。これまでの研究会にも参加してくださっています。
織田さんはなぜ、暗号通貨に着目されているのでしょうか?
「金融業界をはじめ、過去10年間では考えられなかったことが、ここ2年ぐらいで急激に起こっています。この変化に暗号通貨が大きく関係しているのは間違いありません。いま起きている変化をどう捉えていくのか。それが、今後の社会の在りように繋がると考えています。」
前編のレポートはこちら
暗号通貨の課題から見えてくる、コミュニティ共通の課題
〔 暗号通貨の基礎知識|©️ファイナンシャルプランナー織田事務所 〕
織田さん:ここまで、暗号通貨の発明について伝えてきました。それでもやっぱり課題があります。暗号通貨はマイニングにものすごいエネルギーと資本が必要なんですね。
けれど、暗号通貨の発明は「人の暮らしを良くする」つまりより良いコミュニティを作るための発明だと、僕は思っています。
Fさん:暗号通貨で起こっている課題が、他のこれまでのテーマとも関連している気がしてきました。他のコミュニティで起きている課題との共通点はありますか?
織田さん:コミュニティとの関連で話をしますと、別府市の商工会議所の方々と話をした時、中小企業を支えつつも、過疎化していくエリアの悩みを話されていました。温泉以外の地域アイデンティティの形として、「地域の独自通貨」とそれに紐づく巨大なソーシャルコミュニティを作って、価値を創出しようと考えたそうです。それこそ、前回の話に関わる「コモンズ的なブロックチェーン」が生まれたら面白いと思いますね。
「Small is Beautiful」 それ以上でもそれ以下でもない、適したサイズで
織田さん:今回、北海道で地震(北海道胆振東部地震)がありましたよね。これがもしブロックチェーン的な電力供給だったら、電気は維持されたかもしれない。「誰かがいるから回っていく仕組み」から、より個々の自立が求められていく時代になると思います。その場合、どういったコミュニティ形成をしていけばいいと思いますか?
Sさん:第1回はまさに「ゆるいつながり」ってなんだろうというテーマでした。非中央集権的な仕組みですよね。たとえばリーダーがいる組織でも、リーダーが風邪で休んだら別の人がリーダーを担えるような柔軟さ。ただし公的なものがnode的になるかというと、僕はあまり意味がないと考えているんです。試行錯誤の末に今の社会が出来ているわけですから。それでも、ブロックチェーンを仕組みとして活用できる幅はありますよね。人間関係も、役割に関わらないスタンスになっていくと思いますよ。
Jさん:僕は、中央集権も非中央集権も両方混在するあり方がいちばんいいと思います。双方あることによって、信頼を獲得しようとするなら、両方の存在が互いの抑止力になるんじゃないかな。たとえば非中央集権で回っている小さなコミュニティがいくつもあって、それぞれに対して中央集権がベーシックインカムを入れていくとか。いくつもの選択肢がある社会だといいかな。
織田さん:いまの話で出てきたのは「small」というキーワードですね。1960年代にドイツの経済学者シューマッハが提唱した「Small is Beautiful」ですね。経済にも適正のサイズがあって、その中で自由主義経済下での完全雇用を提唱しました。当時は高度経済成長期前だったので見向きもされませんでしたが、再び注目されています。
Wさん:私は大学教員をしながらコミュニティ心理学を学んで、大学という場所は「安心と安全・多様性・心身の健康」それぞれのコミュニティが必要だと考えていました。その流れから平和についてまとめる機会があったんです。国家間が戦争をするわけで、平和がなければコミュニティさえも構築できない。コミュニティのあり方を考えていくと、どうしても「国家」が必ず出てきます。答えは出ないままなのですが。
金融とは人の心のあり方。人の心がアップデートされる必要がある。
織田さん:僕は結局「人の心がアップデートされること」だと思っています。今起こっている争いごとを見ていると、ただただ、愛がないなぁと。いくらテクノロジーが発達しても、人の心が成熟していなければテクノロジーを活かすことができない。金融は「心」だなと思うんです。シンプルに「困っている人がいたら助けよう」というコミュニティがあってもいいのに、現実はそうなっていかない。
Dさん:いまの世の中の仕組みだと「権力がない=金がない」じゃないですか。権力ではなく貢献度という見方もある。「あいつは売り上げが取れないけれど、いてくれたら社内が回るよね!」みたいなこと。
Fさん:つまり「信用の形」ですよね。取引履歴である暗号通貨のブロックは「過去の信用」の証だと思います。今って信用がないからあちこちで揉めごとが起きていませんか?
Yさん:前回コモンズの話になった時「お金の使い方を左右する評価」が話題になりました。ちょうど今日、就労支援を受けている20代の若い利用者さんが「自分は障害があって人と同じように食っていくことが難しいから、暗号通貨の勉強をしている。」さらに「自分にとっての信頼は報酬でしかない」と。彼らのように考える若者は当たり前になってきています。目に見えないものにどう価値を置くのか?報酬以外にも、「信頼」の表現や選択肢をどう増やすといいのか、悩みます。
Fさん:信用があってはじめて信頼に繋がっていますからね。通貨の三要素というのがあって、①価値の尺度・②価値の保存・③価値の交換。価値をどういった尺度で測るかがキーになるのかなと。
Sさん:交換と尺度はブロックチェーンらしさですよね。そもそも暗号通貨以前に、インターネットには「デジタル・アセット」の課題があった。
今は当たり前にチャットを使いますが、直接話しているわけではないから、相手が本当に本人かどうかって分からないじゃないですか。様々なサービスができてきて、自分が発している情報をサービス利用者が互いに承認し合うことで通信の質が上がったわけです。お金が一番わかりやすくデジタル・アセットの状態を表現できる。だから暗号通貨が生まれたわけです。
交換度で課金させていく「Like Coin」がこの間、香港で上場しました。評価経済のなかで出てきたものです。ただ、それが流通するかどうかは別かなと。日本には「モナコイン」がありますよね。彼らはモナコインを持つことが「コミュニティ所属へのアイデンティティ」になっている。それがどう世界と繋がるかが今後の課題です。小さいコミュ二ティ、多くても100万人都市単位で使えるところがいくつも現れるといいのかなと。中央集権の経済圏と非中央集権の経済圏が共存して、それぞれのレイヤーを超えたコミュニティはできるだろうと思う。今後コミュニティは作りやすくなるんじゃないかな。
そのためには、ブロックチェーンの「理念」がもっと知られる必要があります。役割や趣味で集まるやり方に加えて「通貨をもとに集まってみよう」という視点です。
織田さん:通貨の概念自体をもう一度見直す、アップデートする時期かもしれません。「絶対値の何か」が消滅する時代が来るかも。でも話題になるのは経済面のことばかりだから、僕はまだしっくりこなくて、実はビットコインを持っていないんですよ。
Sさん:その感覚自体がアップデートされるといいかもしれませんね。理屈ではなくて「共通のアイデンティティー」として捉えられるような。
Fさん:日常的なコミュニティの中で「価値を形にしていくこと」がもっと身近になるといいですよね。
織田さん:まさにギリシャショック以来、ギリシャでは2017年1月の段階で40%の通貨がビットコインに変わっているという記事がありました。 まだまだ答えの出ないテーマですが、今日のセッションをみなさんの参考にしていただければと思います。
次回はいよいよ最終回です。
これまでのディスカッションを総括して、株式会社スタッフロール代表・高瀬文聡さんが話題提供をします。最終回のレポートをどうぞお楽しみに。
(text:エスラウンジ 松永結実)
今回の対話から生まれた疑問
- 中央集権に対して、非中央集権型のコミュニティをつくることはできる?
- 暗号通貨=コミュニティ所属のアイデンティティになり得る?
- 信頼の形/報酬の形 貨幣以外での表現方法は可能?
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主催:株式会社スタッフロール
会場:ビューズ@名駅 https://view-s.jp/
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