株式会社スタッフロールでは、2018年の1年間「これからの生き方を考える会」を実施しました。多様なバックグラウンドを持つ方々とのつながりの中から、これからの時代を生きるひとりひとりの新しい在り方を模索していきます。
今回はいよいよ最終回。2018年12月に開催した第6回レポート【後編】をお届けします。
第6回テーマ「うつ病の方にとって、心地よいコミュニティのつくり方とは?」
〔 株式会社スタッフロール 髙田尚恵さん 〕
最終回の話題提供者は、本研究会の主催者・株式会社スタッフロール代表取締役の高瀬文聡さん・髙田尚恵さんです。うつ病など気分障害のある方の社会復帰支援を行う「ビューズ@名駅」の運営を行っています。
孤立を防ぎ、なおかつ心地よいコミュニティのつくり方とは何か?前編では、気分障害のある方を取り巻く社会復帰への課題を共有しました。
前編のレポートはこちら
自分のことを分かっているつもりでも、人は無意識の「こうあるべき」に気づけない。
Sさん:今回は「うつ病の方にとって心地よいコミュニティのつくり方」というテーマですが、僕はそもそも、支援機関がそういったコミュニティを作る必要性があるのかどうかも分からなくて。
Dさん:完全な自助会だと同じ人たちの集まりになっちゃって、他の人が入りにくい空気になる。そこに「オーガナイズする人」がいることで、ただの傷の舐め合いではなく回復へと方向性を変えられるんじゃないかと、聞いていて思いました。
髙田さん:うつ病という形で孤立してしまう方は、かえって居心地のいいところに留まってしまう傾向があります。もし風通しの良いコミュニティを作ったとしても、際限なく居られるとなった時、よくあるのは気の会う人同士でどんどんグループ化して行く。そこに気分障害の難しさがあります。実際「他の人と混ざることが怖い」というメンバーさんの声もあります。
Mさん:うつ病の方々ってとても繊細ですよね。「自分がここにいる」感覚、その確立が難しいのかなと思いますし、ある意味では「自分に囚われ過ぎている」とも思います。
Dさん:僕は自分のこだわりが強すぎて、周りと衝突ばかりしてずっと困っていました。あるきっかけで「自分は他人からどう見られているか」を気にするようになって、「まあいいか」と自分を手放してからは、うまくいき始めましたね。
Mさん:僕も精神科病棟に入院した経験があって、退院直後は自分のことばっかり考えていました。仕事ができない、体の具合が悪い、自分は何の役にも立っていない、将来が不安だ……ある時それを止めました。自分はこんな状態だけど、家族や友達が元気ならいいじゃんって。自分のことを考える時間を減らして人との関わりを増やしたら、だんだん回復していくのが分かりました。これは徹底的に落ちるところまで落ちて気づいたことです。
Dさん:僕も一緒です。ものすごい挫折を味わって、それまであった根拠のない自信が無くなったときに、ようやく他人の言うことを信じてみようという気になれた。でも、その理屈だと全員が深い挫折をしないといけなくなるから……
Jさん:結局「自分のことを分かってない」という事ですよね。みんな誰かしらの影響を受けて何らかの「こうあるべき」がある。それを、分かっているつもりで分かっていないかも。
僕は田舎から出てきて環境が変わって、自分の過去を知らない人と常に新しい出会いがあった。自分の価値観がいい感じに壊されて、こうなりたいと思える人にも出会えた。だんだんアップデートされて「生きやすい自分」を見つけられたって感じです。物理的にめちゃ離れた場所へ行くというのはいいですね。国内でも海外でもいい。全く違う価値観の人とぶつかった時に、自分の価値観が壊されて気づくこともあります。
Sさん:うつ病の方の現状や孤立することの課題がある、そういう認識を踏まえた上で、さらに新しい環境で生きていけるように。
Jさん:みんなそれぞれ「いくつもの自分」があるというか。リアルに人と立って話すことで解決できることもあれば、オンラインがいい時もある。どっちもあればいい。いくつかある自分のうち、どこかで自分の居心地のいい場所があれば、もし他がうまくいっていなくても生きていける。だから、いくつもの場所を持てるような「何か」が構築できないと、大きな変化って望めないのかなと思いますね。
Sさん:より大きな枠組みで考えて《うつ病の方と、そうではない方のマッチング》だと思うんですよ。うつ病に限らず、LGBTのことをはじめ「ある属性の人」「その属性ではない人」「ある属性の人に影響を与えてしまう人」何となく対立構造になっていて、互いのコミュニケーションや対話の場が足りないと感じます。
支援機関はあくまで間に立つ立場(オーガナイザー)だから、プラットフォームを作るのは、スタッフロールさんが目指しているヴィジョン/ミッションにもマッチする気がします。
Dさん:もしオンラインサロンなら、2つめの課題であった「入口」にもなりそうですよね。自由に人が集まっていて、そのうち何割かの人が具体的な支援サービスへとつながる。自助会と違ってオーガナイザーがついているという点で、支援機関がコミュニティを運営する意義はそこにあるんじゃないかな。
「本来は必要なことを、価値として捉えにくい人」へのアプローチ
髙田さん:ありがとうございます。メンバーさんは、言い換えると「自分の大切にしているあり方を、自分のペースで続けていくことが難しい人」たちです。
さらに踏み込んでお伝えすると、本当の課題は《本来必要なことを価値として捉えられていない人》へのアプローチなんです。私たちが目指すコミュニティづくりは、ご本人が困らずに生きていけるセーフティネットの意味と、長い目で見た自立のサポート。いま目に見えないものに価値を感じていただくにはどうしたらいいのか。悩みますね。
Sさん:病から回復して社会復帰したとしても、たとえば働いていないどうこうで物を言われたりする。現状では評価になりにくいということですよね。経済的な価値とも違う「気づかれない価値」。
昨日中国から帰ってきましたが、中国はまだ経済中心で“何が幸せかどうかを気づけていないこと”が幸せだって僕は思う。でも、ベトナム人と話した時に「日本人は、現状に対して幸せを感じられていないことに、むしろ課題を感じるべきだよ」と言われたんですよね。
つまり何に価値を置くかの定義って変わっていくんですよ。じゃあ数年間の短いスパンで考えた時、何が価値になるのか。僕もまだよくわからない。
髙田さん: Sさんのおっしゃるように、見えない価値というか、必要なのは《幸福感》につながるところです。根本の部分で「自分がどうありたいか」が見えていないと、どう進んでいいのかも分からない。だから、理想はメンバーさんにとって交流の生まれる場所です。いろいろな人と話ができて、自分の価値観を具現化していけるようなコミュニティ。
高瀬さん:第1回でも話題に出した「かえってきんしゃい」文化ですね。プラットフォームとしてのコミュニティがあり、その中での切磋琢磨があって、自分の力を試しに外に出ていく。でもまた戻ってこれる。居場所化してしまうと良くないんです。流動性の担保はコミュニティが継続していくための方法でもあると思います。
Sさん:ここまでの議論は、気分障害の人たちがあるマジョリティであり、なんらかの形で馴染めていないことへの対策かなと思いました。もっとも、そういう課題や悩みすらなくなる社会がいちばんベストな訳ですよね。その対策すら必要がなくなることへのアプローチだってあり得ると思うんです。
人間おのおの特性がある中で、うつ病の方々が特別偏っているというふうに、僕は思えないんです。学術的な境目のことは分からないんですが、認識として特別視している感じ。うつ病の方に限って言えば、僕は「多くの人が限りなくうつ状態に近い」と思っていて、都市部で一緒に仕事をしている人たちを見ても、一線超えてないだけだなと感じます。
あえて言ってしまうと「そのままでも生きていけるよ」と言ってあげられることじゃないでしょうか。そんなに大きくはかけ離れていない、特別じゃないと語れるコミュニケーションが必要だと思うんです。
髙田さん:実はあるメンバーさん同士の会話で、「そのままでもいいんだよ」と言った方に対して「そのままだったら衝突が起きてしまうだからお互いに調整が必要じゃないですか?」という切り返しがあって。「自分が調整して、適応してやっていかなきゃ」という意識がなかなか強いんです。だからクッションになるような場、「いくつかある顔のうちどこかはそのままでも大丈夫」な場が必要になってきます。
高瀬さん:メンバーさんの傾向として、つながりの少なさ=ロールモデルとの出会いの少なさになっています。頼れる人がいたとしても、周りにいるのが上司や仕事関係、つまり「評価者」なんですよね。
Yさん:あの、「うつ病になっていない人が、うつ病の人に学びに行ける場」ってできないでしょうか?話を聞いていて、ビューズでも「ヒューマンライブラリー」ができるといいなと思いました。それなら、評価者・被評価者という関係性ではなく、ニュートラルな関係性になります。お互いから学び合いが生まれる。
Sさん:ちょうど、「野の医者は笑う」(著書:東畑開人/誠信書房)を読んでいて思い出しました。
個人が能動的にコミュニティづくりをやっていくのは大変なので、スタッフロールとして「会いたい人に会いにいける場」をオーガナイズしていくといいかも。
Oさん:僕はこの研究会に参加して、自分の専門分野外のところでお金の相談が必要な方がいると分かったんですよ。それでやっぱりごく稀に、支援の必要な方からご相談があります。この研究会を通じて臨床心理士さんとつながったことで、お互いに相談しあえるようになって。クライアントさんだけでなく、僕自身の安心にもつながりました。
Sさん:メンバーさんは、社会復帰した時に様々な「経験者」として大切な人たちですよね。事業としても人材、企業側からお金を出してもらうことも考えていきたい。僕個人は、病んでしまったらその時と思う側面もありつつ、本当はそれじゃいけないんだろうなとも思います。経験していない人は、分かっているようでやっぱり分かっていない。経験者でなければできないことを、価値として創っていく動きも必要なんじゃないでしょうか。
Oさん:皆さんと話していて、僕は親から「人は人、自分は自分」という教育を叩き込まれてきたんだってあらためて気づきましたね。親からよく「どうしてそれに興味を持ったの?」と問われたりして。教育というのか、凝り固まった価値観からいかに解放されるか。それはどれだけの時間、成長するどのタイミングで必要な経験なのか。コミュニティづくりにも反映させられるといいですよね。
高瀬さん:ひとつは「成長を実感する場」ですよね。成長=幸福と捉えるかどうかも含めて。
Oさん:僕から見ると、うつ病や精神疾患の方々は「最先端の人たち」に見えるんですよ。受け入れていかない社会の側が幼稚すぎなんじゃないかと思うぐらいです。
髙田さん:コミュニティのつくり方として、できることなら「疾患としての括り」を外せたらという理想がある一方、やはり難しい現状があります。メンバーさんをはじめ気分障害の方々が、経験者だからこそ伝えられるもの・共有できること・広げられるものを形にしていければいいのだと思いました。みなさんありがとうございました。
高瀬さん:コミュニティのつくり方以前に、心地よいコミュニティのあり方、そもそもコミュニティが必要かどうかの議論も含め、今日はたくさんのヒントを頂けました。さらに現実的なアクションができそうな気がしましたね。現状をより知っていただくために、メンバーさんと一緒に何かをやること、スタッフロールが繋がっている支援機関や企業など他のコミュニティとの話し合いもしていきたい。まずは事業性にかかわらず、月1回からでもこうした議論をできる仲間を、さらに増やしていくことかもしれません。
「これからの生き方を考える会」は最終回となりますが、コミュニティづくりをはじめとする探求は今後も続いていきます。
スタッフロール2019年の活動に、ぜひご注目ください!
(text:エスラウンジ 松永結実)
今回の対話から生まれた疑問
- コミュニティを離れると個=孤立が進んでしまうのはなぜ?
- 「本来は必要なことを、価値として捉えにくい人」へのアプローチとは?
- 「そのままでも生きていける」とは、どのような形だろう?
テーマを読み解くキーワード
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私たちと共にこれからの生き方・働き方を考えてみたい方、
様々な想いを持った方のご連絡をお待ちしています!
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主催:株式会社スタッフロール
会場:ビューズ@名駅 https://view-s.jp/
愛知県名古屋市西区名駅二丁目25番21号ベルウッド名駅1F
問い合わせ先:052-462-1608
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